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『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』の上映に向けて定期更新中の公式サイト限定スタッフインタビュー企画。通算第9回目の今回は、3D監督を務める森本シグマさんに、お話を伺いました。
石黒監督版のアニメに関しては幼い頃に少しだけ観ていた記憶があります。石黒監督版が最初に発売されたのは、自分が5歳頃の時なので、『銀英伝』と自覚しながら観ていたかどうかは怪しいのですが……。原作と石黒監督版のアニメをしっかり読んだり観たりしたのは、『Die Neue These』のお話を頂いてからです。
他の方もおっしゃっていることだとは思うのですが、やっぱりスケール感の大きさが印象的ですね。全長1kmの船が何万隻も飛んでいるような、大きさが想像できないぐらいにすごいマクロな世界じゃないですか。でも、『銀英伝』という作品の本質がどこにあるのかといえば、ラインハルトとヤン・ウェンリーを中心とした群像劇で、一人一人のミクロの視点を描く作品なわけですよね。そのマクロとミクロの視点を一瞬で行ったり来たりする振り幅の大きさがこの作品の魅力なのかなと思いました。
多田監督の作る『Die Neue These』にあって、石黒監督版に無いものは何かと言われたら、CGの戦艦や戦闘シーン。なので、CGを使った『銀英伝』の艦隊戦は、誰も作ったことがなければ、観たことも無かったわけです。そこで、「さて、どうしよう」となりました(笑)。もちろん、誰も観たことがないものを作ることへのワクワク感もありましたが。
艦隊戦に関して言えば、まず2Dで描かれた戦艦の設定を元に立体(3DCG)に起こします。それを、コンピューター内で作った空間に何万隻と配置して、ビームを撃ち合わせ、そこにカメラを配置し、映像として切り取る、というのが艦隊戦のカットの作り方です。
そうやって空間を描くことができるのが、3DCGの強みなんです。また、艦隊戦以外のカットでも、画面の奥に歩いている人たち(モブキャラ)や、自動車なども3DCGで描いています。例えば、第2話の最後の式典には、参列者が1500人くらいいますが、そういう人々もCGで描いています。あと、アニメーションの制作工程の中でレイアウトというものがあり、そこでも一部、3DCGが使われています。
戦艦の艦橋のシーンなどがそれにあたりますね。3Dでレイアウトを作って、それを元に手描きのアニメーターさんが絵を描かれるんです。
普通、3DCGのスタッフは、作品のいろいろな枠組みが決まって、実制作が始まってから呼ばれることが多いんです。でも、この作品では、艦隊戦などで3DCGを使うという方針があらかじめ決まっていたので、企画の段階から参加することになりました。
通常、メカなどの3Dモデルを作る時には、決定稿になった(2Dの)デザインから3Dに起こすのですが、今回はラフ段階の設定を元に、一度3Dモデルを作り、それをデザイナーや監督に確認していただきつつ、さらに詳細な設定をつめていただいて。それをまた3Dに反映させる……というやり取りを繰り返して、最終的な戦艦の形を固めていきました。その結果、デザイナーさんのアイデアと、3Dによる表現のより良いところを出し合えたと思います。
ディテールはとにかく細かいです(笑)。設定の方々とより良いもの追求していく中で、お互い先に「これ以上は無理」と言った方が負けみたいな、チキンレース状態になりました(笑)。
分かりやすいところでは、クオリティコントロールですね。監督の演出意図を伺って、それをどう3Dに変換して画面内に収め、クオリティの高いものにするのか、ということを考えるのが、まず一つの役割としてあります。あとは、各カットを作る上の仕様や、どのくらいの数の艦やモブのモデルが必要なのかということも考えます。全体のスケジュールや予算の管理や、どのカットをどのスタッフに割り振るかも大切なことですね。なので、3Dの関わることすべてをコントロールをするのが3D監督の役割です。その上で、自分で直接カットの制作も行っています。
そうですね。常に、細かい情報が盛り込まれているコンテが上がるわけではないので、その余白の部分に関しては、僕の方である程度、アイデアを出したりします。もちろん、特技監督の竹内さんや演出の方にアイデアをいただくこともいっぱいありますが。
監督からは「普通の艦隊戦にはしたくない」と言われました。
あはは(笑)。まさに「すっごい美味しいものが食べたい」みたいな話なので、悩みはしました。でも、先ほども話しましたが、3DCGでの『銀英伝』の艦隊戦は、まだ誰も観たことがないものだったので、抽象的なオーダーしか言いようがなかったのではないかと思います。あとは、艦隊戦を1cut観るだけで「あ、『Die Neue These』の艦隊戦だ」と分かるようなものにしたいというお話もありました。
まず、普通の見せ方はできないという時点で、おのずとディテールがすごいものになるんだろうなとは思いました。あとは、『銀英伝』なので、泥臭いよりは奇麗な方が良いのかなとか……。先ほどお話したミクロとマクロの話で言えば、マクロに振り切っているところなので、その存在感をどう出すかを一番重要視しました。具体的なところでは、僕らは「間接照明」と呼んでいるのですが、艦の内部に光を仕込むことでスケール感を強調しています。
※「ヒューベリオン」後方から撮影
SFらしいスケール感などを出すための一番分かりやすい方法といえば、表面にパネルラインが細かく入っているとか、小さな小窓がいっぱいあって光っているとかなんですね。でも、最初に監督やデザイナーから、「もっと違う方向性の見せ方を探して欲しい」と言われて。ちょうどその時期に帝国の標準戦艦の3Dモデルが上がってきて、とても細かい作りになっていたので、中にライトをいっぱい仕込むことを試してみたんです。テストの段階で、2、300個くらいライトを仕込んだものを監督陣に見せたら「この方向だね」という空気になりました。
僕個人としては、オープニングの最初のカット、(ラインハルトの旗艦)ブリュンヒルトと、(キルヒアイスの旗艦)バルバロッサが戯れている様な感じで飛んでいるところです。実は、あまり作業時間が取れなかった上に長尺のカットだったので、一発勝負に近い形で作ったのですが。『銀英伝』の奇麗さと2人の関係性も出しつつ、戦艦のスケール感も上手く出せたかなと思っています。あのカットを作ったことで、『Die Neue These』の艦隊の見せ方を掴んだ気がします。あと、3D全体で言えば、ほぼ同時進行で作った第1話と第2話ですね。誰も知らなかったものをあそこで一度形にして作りきることができたことで、「あ、いけるな」と思いました。特に第1話の最初の戦闘を作った時の手応えが大きかった気がします。
どんどんブラッシュアップして最適化していくので、制作ペースも上がっていきます。ただ、監督陣も3Dに対する理解がより深まることで、演出の幅もどんどん広がっていき、「こういうこともやって」という要求が増えました。ですので、制作ペースに関しては、プラスマイナスゼロです(笑)。ただそういった意味では、演出側と3D側がお互いに刺激しあってきた結果が、第11話の帝国側の発進シークエンスの見せ方に繋がっているのではないかと思います。1話、2話を作っている時点では、あんなシーンが作れるとは想像できなかったので。また、見せ方やアイデア的なところでは、竹内さんにもだいぶ鍛えていただきました。
本当にすごいですね。コンテやラフの原画で描いて指示をしてくださるのですが、「3Dだけやっていたら、こんな発想は出ないよな」と思うことが何度もありました。12話のワルキューレとスパルタニアンのドッグファイトなどもそうですね。
僕にとっては、3D監督という立場は、この作品がほぼ初めてだったのですが、それを抜きにしても、こんなにプレッシャーがかかる作品は初めてでした(笑)。最初の頃は、多田監督の他にも、竹内さんや常木さんたちのような、この業界に入ったら知らない人はいないであろうベテランの方々が5、6人くらい常に3Dチェックにいらっしゃっていて。対する僕は1人で本当にすごいプレッシャーでした。すごく鍛えていただいた現場ですね。3D監督として最初に、この高い山を登れたことは自分にとって大きなことですし、今後も一つの指標になる作品だと思います。
第1話を作っている時から、あくまでも主役は人間ドラマであって、艦隊戦はドラマを盛り上げる脇役であるということは、ずっと意識してきました。とはいえ、シーン的にはやはり目立つところでもあるので、ただの脇役になってしまうのもダメだと思っています。『Die Neue These』という作品の中においての名脇役というか、助演男優賞……あ、船だから助演女優賞ですかね?(笑)。それをめざして、ずっと作り続けてきました。そういう少し変わった視点から艦隊戦を観てもらうと、パワーアップした映像と一緒に、ドラマもより面白くなるかなと思います。
今回は、劇場でイベント上映されるということで、画の密度は第1シーズンからさらにパワーアップしています。「そこまではやらなくても良いんじゃない?」と僕が思っても、もう周りを止められないくらいです(笑)。ぜひ、上映開始を楽しみにしていてください。
[取材・文=丸本大輔]