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『銀河英雄伝説 Die Neue These』のスタッフインタビュー企画第2回。様々な場面で多田俊介監督をサポートしている森山悠二郎助監督にお話を伺いました。
「助監督」や「副監督」という役職は、どの作品にも必ずあるセクションではないので、その監督や作品によってやることは変わってくるとは思います。僕が多田(俊介)さんと一緒にやらせていただく時は、「なんでも屋」ですね(笑)。シナリオを作る段階から会議にも参加し、多田さんと作品を共有していて。今も、一緒にタバコを吸いながら、どうしていくべきかをひたすら話す日々です。具体的な作業内容としては、話数コンテなどの演出業務に加え、多田さんから「こういうイメージが欲しい」と言われた時にはイメージボードを描きますし、監督がコンテチェックやカットチェックをする際、設定の無いものを追加したい時には、それを作ったりもする。だから、メカやサブキャラのデザイン、美術設定も描いたりします。本当に何でもやるんですよ(笑)。
多田さんが監督をしていた『黒子のバスケ』という作品に原画で参加していて、「演出をやりたい」という話を常々していたんです。その後、多田さんが『スタミュ』という作品でも監督をされた時、製作現場では「監督助手」というセクションをいただき、お話ししたのと同じような内容を担当していました。
失礼ながら、作品に関わることが決まる前は『銀河英雄伝説』を深く読んだり、観たりしたことはなく。お話をいただいてから拝見した形ですが、非常に良い作品だと思いました。『銀英伝』に出てくるキャラクターは、僕らと同じく何らかの社会的な役割を担っていて、時には葛藤をしながら、与えられた役割を一生懸命にまっとうしようとしている。そこからかけ離れている存在は、ラインハルトやキルヒアイスくらい(笑)。産まれながらの悪人は居らず、ただ、僕等と同じように弱さを持っている、結果的に世の中にとって悪いことになるとしても、その人は良かれと思って行動していることがほとんどだと思うんです。そういったキャラクターの描き方に非常に魅力を感じたし、多田さんとも相性が良い作品だなと思いました。
多田さんは、作品の中で、大切なことを「大切だよね」と言える人で、大仰に語るわけではないのですが、根幹に人間に対する敬意を感じるんです。原作や、田中先生ご自身、石黒監督のアニメからも同じようなものを感じます。
作品のテーマ的なものについては、改めて話してはないんです。それについては、元々、多田さんとは共有できていたのかなと思います。映像面に関しては、原作ファンの方もいらっしゃいるし、偉大な石黒監督のアニメもありますし、ぬるい仕事はできない。皆さんの期待に応えるものにしなくてはいけないと思っています。
『銀英伝』ほどのスケールの作品はそうそう無いと思いますし、僕自身、こんなにスケールの大きな仕事を請け負ったことはありません。だから、まず、この作品に取り組むこと自体が挑戦です。それに、この作品では戦争や、戦時下で生きている人々を描いていますが、僕自身、戦争経験者ではありません。経験の無いことを描くのは難しいことなのかもしれませんが……。フィクションではありますけれど、ちゃんとそこに人間が生きて生活しているんだなという実感を持たせたいと思います。本当に少しのシーンしか出てこないキャラクターもいますが、ちゃんと、この世界にその人が生きていたんだという実感を映像の中には残したいです。
「ここを観て下さい!」なんていう尊大な気持ちには、なかなかなれないんですけど(笑)。石黒監督版のアニメのファンの方が観て下さった場合、同じ原作から作られている作品なので、同じ名前のキャラクターが同じセリフを喋ったりもするわけです。だから、作品の主題は変わらないのかもしれないですけれど、そこに至るまでの描き方などによって、セリフの響き方みたいなものは変わってくることもあるはず。多田さん自身が石黒監督版の大ファンなので、作品に対する敬意は欠かさないように作られていますが、(石黒監督から多田監督へと)語り部が変わったことによる違いもあるはずなので、多田さんを通した『銀英伝』も楽しんでいただければと思っています。
全体の話になるのですが、(作画で描く)線の数も情報量も他の作品にはないくらい上がっているので、それに取り組んでくれているスタッフの皆さんには、本当に頭が下がります。3Dも、作画も、美術も、それを取り仕切る制作サイドも含めて、素晴らしいと思います。もちろん、個人では、メカデザインの竹内(敦志)さん、総作画監督の後藤(隆幸)さん、編集の植松(淳一)さんといった、これまでProduction I.Gを支えてこられた方のお仕事は、やっぱりすごいです。音響周りに関しては自分の専門では無いのですが、アフレコでの音響監督の三間(雅文)さんの演技指導も本当に的確ですね。もちろん、宮野(真守)さん、鈴村(健一)さん、梅原(裕一郎)さんら、声優さんも素晴らしいです。
一度、あそこまで明確な形を作られたキャラクターを改めて演じるわけですから、初回のアフレコでは、どういう形で来るのかなと思っていたんです。でも、皆さん、さすがだなと。宮野さんのラインハルトに関しては、ナチュラルボーンの力のすごさを感じました。ご自身は、きっと悩まれたり、努力されたりしていると思うので、失礼な言い方になるのかもしれませんが……。鈴村さんのヤンは、解釈がすごく現代的な印象を受けました。僕自身、石黒監督版を観て、少し気だるい感じのヤンのイメージが強く印象に残っていたのですが、ヤンの特性を失わないままで、こういう演じ方もあるのだなと驚きました。キルヒアイスに関しては、デザインの方向性が石黒監督版とは違うため、逆に難しい部分もあるとは思うのですが、梅原さんは本当に真剣にキルヒアイスと向き合って下さっています。
ベタな答えになってしまいますが、好きなのはヤンですね(笑)。そして、目が離せないのはラインハルト。自分はどうしても、そんな風にはなれない存在なので。
ヤンも踏み込んでいくと、異質なものをもっていますよね。ものすごく諦観したところがあるんですけれど、目の前に解決しなくてはならないことがあれば、それに対しては全力を尽くす。冷めたものと熱いものが共存しているところが面白いなと思います。
『銀河英雄伝説』という作品は、すでに皆さんにとって、とても大切な作品になっているわけですから、『銀英伝』ファミリーの一員として認められるように、そのタイトルを名乗るに恥ずかしくない作品となるように頑張りたいです。その上で、新しく『銀河英雄伝説』を好きになってくれる人たちも開拓する。そういう任を負っている。その両方ができて初めて、認めてもらえるのかなと思っています。
僕がこういう仕事を志すきっかけになった作品は、観終わった後、心の中に何かを残してくれる作品ばかりだったんですよね。だから、この『Die Neue These』もそういう作品にしたいと思っています。そうできるだけの可能性がある器はいただいているので。なんとか、それを実現させたいです。
現場のスタッフとしては、とにかく目の前のことを一生懸命やって、フィルムを形にすることしかできないのですが、フィルムは誰かに観てもらって何かを感じてもらえることで、初めて完成するもの。観て下さる方々にも参加して頂かなければ、作品はできあがらないんです。ぜひ皆さんも私たちと一緒に、『銀河英雄伝説Die Neue These』という作品を育てていただきたいと願っています。
[取材・文=丸本大輔]