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『銀河英雄伝説Die Neue These』のスタッフに作品への思いやこだわりなどを聞いていく公式サイト限定企画。第1話の放送開始直前の公開となる第6回は、本作の美術監督で、美術担当スタジオ「Bamboo」の社長でもある竹田悠介さんにお話を伺いました。
キャラクターやメカ以外のものを描いた美術(背景)について統括する立場で、それぞれの画面がどんな色合いで、どのくらいの光の強さなのかといったこともコントロールしていきます。具体的には、「美術ボード」という、その話数でキーになるシーンの絵を毎話10~30点くらいずつ描き、それを元に監督と打ち合わせをします。例えば、同じ部屋のシーンでも、「このシーンは心情的にこうなので、こういう色味にしたい」といった演出上の違いもあるので、そういう要望などを聞きながらボードを描いていきます。そうやって作られていく断片的なシーンの数々が1つの作品としても、ちゃんと成立するように、色や光の表現の振れ幅などをコントロールしていくのも、美術監督の役割です。舞台に例えるなら、セットを作るだけじゃなく、どういう照明を当てるのかというところも含めて考えてます。
美術設定は、言葉通り美術の「設定」を描くのが主な仕事。「設定」が、建物がどんな形状をしているのかといったデザインを線画で描いたものです。一方、先ほどご説明した「美術ボード」には、光や色や質感も含まれていて。具体的にどういう絵として見えるのかを提示しているんです。
Production.I.Gの磯部(真彩)プロデューサーからお話をいただいて、参加することになりました。誰もが知っているビックタイトルですから緊張しましたね。僕自身、たぶんまだ学生だった頃、原作を一通り読んだし、石黒監督版の長篇(『わが征くは星の大海』)も映画館で観た世代なので。それに、新人の背景マンだった頃、石黒監督版にも一度だけ参加しているんです。
それが美術では無いんですよ。当時、別の作品で戦艦のハーモニー(止め絵)を描いていたのですが、「『銀河英雄伝説』でもハーモニーを2枚、お願いしたい」ということで声をかけていただいたんです。当然、戦艦を描くものだと思っていたのですが、打ち合わせに行ってみたら「キャラクターのハーモニーをお願いしたい」という話だったんです(笑)。戸惑いながらも、やるしかないなと思って描いた水彩風の2枚のキャラクターの絵が、石黒監督版の『銀英伝』に関わった唯一の仕事でした(笑)。
物語の舞台は未来ですが、その中で描かれている物語は非常に古典的。歴史の大河ドラマだと思っています。華のある登場人物がたくさん出てくるのですが、非常に骨太な人間ドラマが展開する作品。架空の世界を描くとしても、ふんわりしたものになってはいけないので、美術で作品の足場をどっしりと固めることが必要だと考えたところから作業をスタートしました。あと、大きく分けて「銀河帝国」「自由惑星同盟」「フェザーン」3つの世界が出てくるので、これをどう描き分けるか。(現実世界の)イメージに当てはめると、帝国はヨーロッパ的な世界観を持っていて、同盟はややアメリカ的。しかも、シカゴとかデトロイトのあたりをイメージしました。そうなると、フェザーンはどこかと考えた時、ドバイかなと。それが多田監督との最初の打ち合わせでした。とはいえ、実際の場所をモデルに描くというよりは、スタッフ間の共通認識として、そのキーワードを頭の中に描いていれば、逸脱しないですむだろうというレベルのものですが。
少し作業が進んでからの話になるのですが……。最初にフィルムとしてみたカットは、撮影の段階でかなり光などを盛ったものだったんですね。その処理はキャラクターにはすごく合っていたのですが、撮影でそこまで盛ると、世界観的に少しふんわりしてしまうというか、絵空事になり過ぎてしまうと思ったんです。
ですからそこまで盛らなくても良いように、(光の表現なども)美術の方でもっとしっかり描きたいという提案をして、了解を頂きました。要は、あまりお化粧をせず、できるだけすっぴんで勝負したいという話です。美術的には求められるもののハードルは上がってしまうわけですが(笑)。そうじゃないと、長く続くドラマに説得力を持たせることが難しいかなと思ったんです。美術の方でロケーションをしっかり作り、現実の光や照明をできるだけ表現して、キャラクターをさらにひき立たせるための照明は撮影さんにどんどんやっていただく、というのが今の方針になっています。多田監督と本格的にお仕事をご一緒するのは今回が初めてですが、すごくビジョンがしっかりしているし、判断も早い、監督ご自身が絵もすごくうまい方なので、やりたいことに迷いが無いんですよね。僕たちも何をやれば良いかがはっきり分かるし、とてもやりやすいです。
作品ごとのスタイルや方向性の違いはあっても、そのシチュエーションに説得力を持たせるためのリアリティの大切さみたいなものは変わらなくて。それには、光とか、色とか、すべての要素が関係してくるんですけれど……。裏返して言えば、「不自然に見えないようにしたい」ということは、常に考えています。
多岐にわたる世界観を描くため、僕の他に美術ボード専任のスタッフが2人いて。さらに、僕を補佐してくれるスタッフも1人いるので、合計4人(の美術監督クラスのスタッフ)が常駐で『銀河英雄伝説Die Neue These』を担当しています。天体が得意、メカが得意といった個性も違いますし、そうすることで作品の世界観がより広がると思っています。それに、第2期の後も長く続くシリーズになって欲しいと願っているので、最初から美術スタッフを多めに投入して、作品をしっかりと支えていければと考えました。作品の中で育っていくスタッフもいると思うので、それが後々、作品の厚みにもなっていってくれるのではないかなと思っています。
これが困ったことに、全部大変なんですよね(笑)。例えば、この作品の戦艦は、ブリッジのデザインも本当に凝っていて。特に帝国のものは装飾が非常に華やかなのでとても大変です。メカニックデザインの竹内さんがデザインされたラインハルトの椅子の設定を最初に観た時には、「すごくカッコ良いけど……誰に頼もうかな」と思いました(笑)。椅子だけでも、十分に見応えがある絵になっていると思います。一方、自由惑星同盟の戦艦はもっと武骨な感じなので、やや汚しを増やしてみたりとか。そういうところでもディティールにもこだわっているので、どのカットにも手がかかっています。先の回では、帝国側と同盟側、それぞれの星の生活環境も描いていますが、帝国はヨーロッパの宮殿建築などがモチーフになっていたりするので、それもすごく大変です(笑)。
個人的に、アバンからオープニングタイトルに入るまでの流れがかなりカッコ良いと思っていて。すごく興奮しました。普段、自分が関わっている作品に関しては、あまり主観的な好き嫌いなどを感じないんですけれど、あの導入にはグッと掴まれましたね。多田監督はすごいなと思いました。
第1話を観ていただければ、作品の世界にスッと入っていただけると思います。原作が非常に素晴らしい作品なので、僕らとしては、どれだけしっかりした絵を長いスパンにわたって描いていけるかが大切。それが実現できているかに関しては、観て確かめていただくしかないのですが……。ガッカリさせないような絵を描いていきたいと思っています。
[取材・文=丸本大輔]