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『銀河英雄伝説Die Neue These』のメインスタッフに制作の裏側やこだわりを語っていただく連載企画もついに第10回目。今回は、撮影監督の荒井栄児さんに、お話を伺いました。
タイトルやなんとなくの内容は知っていましたが、観たり読んだりしたことはなかったんです。少し失礼な話なのですが、参加が決まってから、初めて原作をしっかり読みました。巻数も多いので「読むのは大変かな」と思っていたのですが、読み始めたら、すごく面白くて。歴史小説を読んでいるみたいで、想像していたのとは違う魅力があり、もっと早く読んでおけば良かったと思いました(笑)。
撮影というのは、キャラクターなどを描いた「セル」と、「背景」と、「3D」などの素材を組み合わせて、最終的な画面に組み立てていく工程です。実写作品でいうとカメラマンのような役割を果たしています。それに加えてアニメの場合は、画面内の光を加えたり、雨のシーンであれば雨を加えたり、といった特殊効果的なことも撮影の工程で行います。撮影監督は、多田監督や(各話の)演出さんのイメージする画面になるように、どのような効果やフィルターなどを使うのかを相談しながら決めていく役職になります。
撮影に関してだけの話ではないのですが、多田監督からは「この作品では登場人物の所作や佇まいなどを大事にしていきたい」という話がありました。どちらかと言えば、アクションよりも静かな画面の方が多い作品なので、撮影に関しても、細やかな心情などを表現するための光の感じとか、画面の雰囲気作りを大事にしていきたい、ということでしたね。
はい、そういうことでした。
まず、多田監督からその話数についての方向性などを聞いたら、こちらで一度画面を作ってみます。それを「こういう光感でどうでしょう?」といった形でお見せして、多田監督から「ちょっと光が強すぎる」などの指摘をもらいながら、調整をしていく形になります。
そうですね。とはいえ、多田監督とは前の作品からご一緒させていただいているので、何となく「こういう感じなのだろうな」というものは、お互いにある程度分かっているかなと思っています。
先ほどもお話ししたように、キャラクターの止めの画面(大きな動きのない画面)が多いので、キャラの処理を少し凝ったものにして、画面の密度を上げたいという提案をしました。例えば、銀河帝国の制服のモール(飾り紐)には、立体的に見えるような処理を入れたり、照り返しのキラッとした光を入れたりしています。あと、今回はおじさんのキャラクターが多いので、顔の彫りが深く見えるような処理を入れたりもしていますね。
撮影が関わっているのはセルがあるカットだけで、艦隊戦など完全に3DCGだけのカットは、光や特殊効果などの処理もCGのスタッフさんにお任せしているんです。だから、作業のカロリーとしては他の作品と比べて、それほど突出したものではありません。とはいえ、先ほど説明したように、キャラクターに細かい処理などを入れたりしているので、普通の作品よりも手はかかってはいます。
細かく手を入れれば入れるだけ、画面がリッチになっていくものなので。時間もあんまりない中ではありますが、手の入れられるところは細かく入れていこうと心がけています。
1話冒頭の戦艦が低空で飛んでいく一連のシーンは、この作品の世界観を非常によく表しているし、きれいな映像になったので、すごく気に入ってます。船の中のパーティールームにいる人々が戦艦を見るシーンで、窓から見えているのは、実は3DCGの戦艦ではなくて、光だけで「戦艦が飛んでいるよ」というのを表現しているんですよ。
光だけで、それだけの存在感が出せているということなので嬉しいですね。あのシーンは、早い段階で作ったのですが、コンテを読んだ段階から作品のつかみになるところなのだろうなと感じていました。具体的に名前のあるキャラクターが出てくるわけではないのですが、(コンテでも)非常に丁寧に描かれていたんです。あと、これも1話ですが、ラインハルトが「ファイエル」と言うシーンもとても印象深いです。あそこは、多田監督から「劇場の舞台のように光が当たっている中で、ラインハルトが指揮をしているイメージにしたい」と言われ、できあがったシーンなんです。ラインハルトが手を上げると、袖が光ったりもしています。先ほどの冒頭のシーンと同じく最初の方に作業したシーンですが、撮影に関しては、ここで今回の『銀英伝』のイメージが固まったかなと思います。
全体的に帝国の方はラインハルトと同じく演劇の舞台の方向で、同盟はどちらかといえば、現実の戦艦などのように油くさい感じ。そういうイメージで、使っているフィルターも明確に変えています。
フェザーンは、なぜか夜のシーンが多いので、ちょっと怪しい感じですね(笑)。
第1シーズンも画面の情報量が非常に多い作品だったので、劇場で上映されるからといって、特に新しく作業を増やさなくてはいけない、ということはありませんでした。良い意味でスタッフもこの世界観になれてきて、「最低限、こういう作業はやらないといけない」ということも理解できているので、「もう少し細かいところにも手を入れよう」という余裕のようなものも出てきていて。それぞれのスタッフが自発的に、いろいろとやってくれています。
第1シーズンは世界観の解説がメインというか、紹介程度のキャラクターもいたのですが、第2シーズンからは本格的に話が進んできます。新しい人たちも出てくるし、物語が一気に動き出したな、という印象を受けました。
まずは、日本のSFを代表するようなビッグタイトルに関われたことが非常に嬉しいです。その大きな作品に乗っかるつもりではないのですが、自分にとっても「『銀英伝』の撮影をやりました」と言えるような……代表作のような作品になると良いなと思っています。そのためにも、もっともっと頑張らないと、という気持ちです。
第2シーズンは劇場の大きなスクリーンで観ていただけることになりました。艦隊戦はより大迫力で、人物描写はさらに細かいところまでじっくり観てもらえるかと思いますので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。
[取材・文=丸本大輔]