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『銀河英雄伝説Die Neue These』のメインスタッフインタビュー企画。第11回目は、石黒監督版『銀英伝』にも参加していた音響監督の三間雅文さんに、当時の思い出や、『Die Neue These』でのこだわりなどについて、お話を伺いました。
音響監督は、ディレクションをしているわけでは無くて、現場で通訳をしているだけなんです。監督のやりたいことを翻訳して役者さんに伝え、気持ちや芝居を引き出す。それがアフレコスタジオでの音響監督の仕事ですね。
はい。監督の使う言葉と役者さんの使う言葉は、けっこう違うこともありますから。例えば、監督から「今の台詞は、もっと大声を出して欲しい」と言われた時、そのまま役者さんに伝えると、ただ声が大きくなって、怒鳴っているような芝居になってしまうこともある。でも、「この人物が胸にずっと溜めてきた思いを、ここで全部ぶつけて欲しい」と伝えると、おのずと、声が出る。そういったニュアンスを伝えるための通訳的なポジションです。
選曲と効果音に関する作業などがあります。この作品の場合、選曲に関してはかなり任せてもらっているので、一度自分の方で(仮の映像に)音楽と台詞を全部つけてみて、それを多田監督に見ていただき、指示をもらいながら直していくという作業になります。
アフレコ用のV(仮の映像)をもらった時、音楽の構成も考えて、つけるようにしています。というのも、音楽によって、多少お芝居も変わってくることがあるんです。例えば、ヤンは、普段イケイケなムードを出さないですが、「撃て!」とかのセリフに合わせて音楽を「ドン!」と出したい時もあって。そういう時には、ヤン役の鈴村(健一)さんに「このセリフきっかけで音楽を出したいので、少しだけビシッと言ってもらえますか」などと、お願いすることもあります。
効果音については、多田監督から「この効果音はこういう音」という設定をいただいているので、基本それに沿って効果さん(音響効果のスタッフ)が作業をしてくれます。自分の作業は、効果さんから疑問などがあった時、「こういう音の方が良いんじゃないですか?」といった提案をするくらいですね。
在籍していた会社(マジックカプセル)の社長で音響監督の明田川(進)さんが仕事で1か月くらい渡米することになって。代わりに音響監督をやることになったんです。当時の自分は20代半ばで、この業界に入ってまだ5~6年目の新人でしたが、ほとんどの役者さんは二回りくらい上の世代で、経験も豊富な方ばかり。石黒監督のやりたいことを実現するためには、役者さんたちに、どのように伝えたら良いのかをいつも必死に考えていました。
最初は、自分みたいなペーペーが何かを言ったところで、誰も耳を傾けてくれないと思っていました。でも、おべんちゃらでなく、本音でストレートにぶつかれば、役者さんもそれに応えてくれるということを学んだ現場です。毎回、すごいプレッシャーでしたけどね。『銀英伝』を通して、音響監督という仕事に対する自分の覚悟が決まったという感覚があります。というか、覚悟を決めないと、とてもじゃないけどできませんでした(笑)。そういう意味で、『銀英伝』は自分にとって大きなターニングポイントになった作品です。
『Die Neue These』のお話をいただく前から、なんとしても『銀英伝』のアニメをもう一度やりたいと思っていて。実は個人的に動いたりもしていたんです。といっても、僕にはアニメの企画をゼロから動かせるような力は無いので、知り合いの監督さんとライターさんに声をかけて相談をしていました。その矢先に「『銀英伝』の再アニメ化の企画がすでに動いてるらしい」という噂が回って来て。すでに他で動いているのなら(音響監督も)他の人がやるんだろうなと諦めていました。でも、しばらく経ってProduction I.Gの方から「『銀英伝』を再アニメ化するので音響監督をしてくれませんか」というオファーをいただいて。しかも、多田(俊介)さんが監督と聞き、「絶対にやりたいです!」と返事しました。一度諦めていた分、よけいに嬉しかったですね。
多田監督は、「そこは三間さんにお任せします」と言って任せてくれるところと、すごく強いこだわりがあって、絶対に折れないところの両方を兼ね備えている方という印象があります。口数はあまり多くないのですが、ご自分の中でしっかりとした芯を一本持っている方なので、僕にとっては一緒にやりやすい監督です。
その回の中で一番の山場になるところについては、特に繊細なイメージを持たれている印象があります。「起承転結」の「転」から「結」に向かうためのきっかけのポイントをとても大事にしていて。現場のキャストやスタッフに、「みんな、あそこへ向かって行くよ!」ということを明確に示してくださる監督さん。逆に、その前の段階まで(感情などを)どうやって持っていくかに関しては、「三間さんの方が得意ですよね」という感じで任せてくれることも多いです。
多田監督は、あまり作ったお芝居にはしたくないと仰っていて。キャスティングに関しても、冷徹なキャラなので冷徹っぽいお芝居をする役者さんとか。体格が良いキャラだから太い声の人に、といった単純な配役ではなくて。キャラクターの個性と、役者さんが内に秘めている個性をなるべく当てはめていきながらキャスティングされています。
『Die Neue These』では、オーディションを行ったのはラインハルト、ヤン、キルヒアイスの3人だけなんです。他のキャストに関しては、基本的には、僕の方で何人かの候補を提案して、多田監督が決める形になっています。
正直、候補を選んだりしている間は、大変さしかありません(笑)。僕は、1人のキャラに対して、誰が選ばれてもピッタリだと思う役者さんを3人ずつくらい選んで提案しているんです。だから、候補の役者さんがどんどんどんどん減っていくんですよ。
そういうことです(笑)。一度、どれかの役にピッタリだと思ったら、他の役でイメージするのがなかなか難しくなったりもするので。でも、(第2シーズンの)キャスティングもアフレコも全部終わってみると、知らない役者さんはまだまだいっぱいいるんだなと感じたし、勉強にもなりました。
多かったですね。半分くらいは、はじめましての方だったかもしれません。この作品を通して、大勢の役者さんのお芝居を知ることができたことには、とても感謝しています。他の作品にも活かせますからね。
新キャラの役者さんには、必ず、多田監督から説明をしていただきました。僕が伝えて、多田監督のやりたいこととズレてしまってはいけないですから。その説明を僕も一緒に聴いて、再確認していた感じです。
この作品に登場するキャラクターたちは、みんな心の中に秘めた思いを持っているのですが、それをあまり表には出さない人が多いんです。だから役者さんにも、(芝居で)キャラを説明しないで欲しいということは伝えているつもりです。
自分も参加はしていましたが、石黒監督版の音響監督は明田川さんなので、当然、(音響周りは)明田川さんのカラーが出ています。僕のカラーはまた違うものなので、(同じ原作でも)自然と違う作品になると思いますし、あまり意識はしていません。というか、当時のことはあまり覚えてないんですよね、必死過ぎて(笑)。でも、設定のことについてはものすごく勉強したのでまだ覚えていて、今回、原作を読み返さなくてもだいたい分かりましたね。
本当に必死だったので。先ほども話しましたが、自分より二回り上の役者さんと対等に話すために、かなり勉強しました。今では有り得ないくらい勉強した気がします(笑)。僕は、(石黒監督版の)途中で明田川さんの会社を出たので、その後の話については、そこまで詳しくありませんが、自分が参加していたところまでの話については、すごく印象に残っています。
この作品が第2シーズンの後も続いていくのであれば、その先には僕にとっても完全に未知の世界が待っているので、新しい船に乗って、新しい場所へ向かうことになります。だから、ワクワクもあるし、怖さもある。そういう作品になると思います。
骨太な漢(おとこ)から繊細な漢まで、いろいろな漢たちが出てくる作品なので、彼らが何を思い戦っているのかを感じ取ってもらえたら嬉しいです。特に女性の方は、普段、「男って情けないな~」と思うことも多いかもしれませんが(笑)。この作品を通して「漢って格好いいな」と、もう1回、感じてもらえたらと思います。原作のファンの方、石黒監督版アニメのファンの方、『Die Neue These』で初めて『銀英伝』に触れている方、いろいろな方がいらっしゃると思うのですが、ご覧になったら、ぜひ感想を教えていただきたいです。おべんちゃらではなく、本音の感想をお願いします(笑)。もし第3シーズンが実現したら、そのご意見を活かしていきたいと思っているので。
[取材・文=丸本大輔]