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『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』の上映に向けて、公式サイト限定企画のスタッフインタビュー連載も再始動。第7回となる今回は、プロップデザイン・紋章デザインを担当している秋篠Denforword日和さんにお話を伺いました。
最初は、紋章(エンブレム)のデザインをして欲しいということで依頼を受けました。僕は元々、設定屋なので小道具のデザインが多くて、紋章のような2D系(平面)のデザインをメインでやるのは珍しいタイプの仕事でした。他社さんの作品で領土旗などをデザインさせてもらったりしてきたので、できるだろうとは思いましたが、期待に沿えるものができるかな、という不安な気持ちもありました。
作品の名前とビッグタイトルであるということくらいしか知りませんでした。というのも、石黒監督版アニメのリリースが始まったのは僕が生まれた年で、完結したのも小学6年生くらいの時。アニメや漫画を好きになったのは、大学2年生くらいからだったので、作品に触れる機会が無かったんです。僕が『銀英伝』という作品の名前を知ったのも、不思議な縁があったからなんですよ。
僕が上京してアニメ業界で制作進行として働き始めた年、スタジオで「洗濯機を譲るって人がいるけれど、欲しい人いる?」という話があって、もらえることになったんです。その洗濯機を譲ってくださった方が、石黒監督版でキャラクターデザインをされていた奥田万つ里さんだったんですよ。それで、奥田さんのお仕事について調べた時、『銀河英雄伝説』のことも知って、「すごい方から、洗濯機をもらえるんだ!」と驚きました。しかも、その洗濯機は、『Die Neue These』の自分の作業がひと段落したところで壊れてしまったんです(笑)。本当に不思議なご縁だなと思いました。
一つ一つのデザインに関しては、具体的な指示があるというより、まずは僕の方から、それぞれの紋章のモチーフになるものを提案して。OKが出たら、そのモチーフでデザイン作業を進めるという形でした。
帝国側に関しては、紋章の中に入れる要素を統一しました。シダの植物があって、中には、その提督にあったモチーフがあって、(モチーフの)背景にも模様が入る。そういうことは決めていました。同盟側の艦隊章は、艦隊の数字が変わる形で、ベースは共通です。
紋章のデザインを始めた時には、まだキャラ表(キャラクター設定)が上がっていなかったので、文章からキャラクターの印象に結びつくようなものをピックアップして。そこからモチーフとなるものを決めていきました。そのモチーフ選びに関して難しかったことがあって。『銀英伝』は非常に長い物語なので、その物語をどこまで知っているかによって、各キャラクターのイメージも変わってくるんです。例えば、僕が「このキャラクターは、こういうエピソードがあるから、このモチーフを絶対に使いたい」と思っても、『Die Neue These』では、まだその話は描かれてない場合、そのモチーフが使えないんですよ。
そういうキャラクターの紋章に関しては、「このモチーフで描きたいのに、描けない!」というのが悔しくて、悶々としていました(笑)。そのキャラクターに関しては、この先、お話が進んで、紋章を変えるという展開になったら、大喜びでデザインするんですけどね。多田監督に期待したいと思います(笑)。
最初に、帝国、同盟、フェザーンの三勢力の国章をデザインして欲しいというオーダーがあって。まずは、同盟から考えました。(中央の)この形は、ベクトルをイメージしたものなんです。同盟は、いくつかの星によって構成されているので、その星々の連帯感を表しました。よく見ていただくと分かるのですが、5つの矢印が組み合わされて、星を作っているというデザインなんですよ。あと、周りの草は、ノアの箱船の逸話から(平和を象徴する)オリーブをイメージしています。こういう形で、一つ一つのモチーフにはコンセプトがあって、それを多田監督にも説明しながら、作業を進めていきました。
これは形先行で、とにかく見た目を厳つくしてやろうと思いました(笑)。(同盟とは違って)王朝なので、長い歴史の積み重ねもありますし、そこをしっかりと取り入れた重厚感のあるデザインにしたいというイメージがあったんです。王冠があったり、ゴテゴテとした装飾が多いのも同じ理由ですね。中央の双頭の鷲は原作にも書かれているモチーフで、多田監督からも入れたいというオーダーがありました。
フェザーンはリボンをモチーフにしています。商人の国なので、約束などを「結ぶ」というイメージですね。リボンの形は四葉のクローバーを模していて、センターの黄色のラインも、リボンの一環として描いています。
信頼感を感じるイメージの青色をベースに、帝国の支配下にある国であることを示すために、帝国の国章の鷲と同じ黄色でセンターラインを入れました。左上に双頭の鷲を配しているのも同じ理由です。
石黒監督版を観て、これは本当にすごい作品だと思ったし、当然、たくさんのファンの方がいるだろうと思ったんです。そして、そのファンの方々がいたからこそ、新しく『Die Neue These』が作られることになったわけじゃないですか。作品に対してリスペクトしている思いも踏まえたデザインをどこかに入れたかったんです。
当然、どれも思い入れは強いので難しい質問ですが……。個人的に特に好きなキャラクターがシェーンコップなので、ローゼンリッターの部隊章は、けっこう贔屓目に作っちゃったかもしれません(笑)。実は、『Die Neue These』のシェーンコップのキャラクターデザインは、映像になった段階で初めて観たのですが。すごくハンサムになっていて少し驚いたんですね。でも、この雰囲気だったら、今回の部隊章もすごく合ってたなと思いました。
とにかく奇麗に見せたいと思って、(美しい形に見える)「フィボナッチ数列」と「黄金比」を使っています。甲冑の後ろのところから、薔薇に向かって、カタツムリの甲羅のようになっているんですよ。
僕は基本、設定屋なので、普通はメカでもプロップでも、アニメーターさんが僕の設定を元に描いてくれたものが画面に出てくるので、今回の予告のように自分の描いたものが直接画面に出てくることって、ほとんど無いんですよ。だから、すごく嬉しかったですね。紋章を使ったグッズも展開していただけたりして、今までに経験したことがないレベルで、自分のデザインが広がっていった実感がありました。ただ、嬉しい反面、第1話の予告を初めて観た時には、「こんなに大きく使われて不評だったら、どうしよう」とちょっとだけ不安になりました(笑)。
紋章の作業がひと段落した段階で、プロップの方にも入って欲しいということになって、最初にオーダーがあったのは、ハンディータイプのプロジェクターでした。今回、僕はプロップはあまり担当してなくて。それ以外だと、帝国と同盟の軍用地上車と、三次元チェスだけですね。三次元チェスに関しては、どういう風に表現すれば良いか分からなかったし、石黒監督版と同じものにもしたくなかったので、モックアップも作って考えました。
はい。ゲーム性についても考えておきたくて。最初は、同じ大きさで3段重ねにしていたのですが、それで実際にやってみると、いくらでも逃げられてしまうから、ゲームが終わらないんですね。だから、下段と上段の盤面は小さくしたりしました。
僕は車が大好きなので、デザインをしていても、とにかく楽しかったですね。帝国の軍用地上車に関しては、帝国は人を使うことがステータスだから、運転席に運転手がいる形にして、ドアは外から開ける人がいる、といった使われ方に合わせた指定があったんです。そういった用途に合わせつつ、どのようなデザインにするのかは、けっこう悩みましたね。
でも、ヘッドライトのところは、自分が乗っている車のデザインを踏襲していたり、少し遊ばせてもらったところもあります(笑)。同盟の軍用地上車に関しては、シートを回るようにして欲しいといったギミックの指定があって、ギミックとデザインの整合性をしっかりさせることが大変でした。手描きのアニメーションだと嘘もつけるのですが、今回は3DCGで作るということだったので、そこをきっちりさせておくことも非常に大事だったんです。
経験という話で言えば、(メカデザインの)竹内敦志さんと一緒にお仕事をできたことが非常に大きかったです。学生の頃、『スカイクロラ The Sky Crawlers』を観て以来、ずっと影響を受けてきた憧れのデザイナーさんなんですよ。だから、お仕事が見たくて、スタジオに入っていた時は、よく竹内さんの後ろに立ってました(笑)。でも、竹内さんは敏感な人で、僕が後ろにいると、すぐに気づいて話かけてくれるんですよね。お忙しいのは知ってるから、見つからないようにこっそり見ていたいのに(笑)。
はい。すごく嬉しかったです。それと同時に、まだ自分は全然追いつけてないことを思い知らされたことも大きな経験でした。竹内さんからは非常に良くしていただいていて、「僕は君が生まれた頃から仕事をしているのだから、簡単に追いつかれたら困るよ」とも言っていただいたのですが……。同じ作品で、同じように役職をいただいて仕事をしているプロとしては、同じレベルでないとダメだと思うんです。でも、そこには全然並べていないことを痛感しました。
ど、堂々とですか……それは、ちょっと自信ないなあ(笑)。でも、当然、少しでも差が縮まるように、ということは常に思っています。
実利的な話になるのですが、この作品をやってから仕事が増えました(笑)。自分のデザインしたものが直接、世に出たことで「紋章などのデザインができるんだな」と知ってもらえたことが大きかったですね。個人のお客さんも増えたんですよ。サバゲーのチームや、日本車をカスタマイズしているチームのロゴを作ったりもしました。
この作品の現場で、非常に楽しみながら仕事をさせてもらっているので、皆さんにも、ぜひ作品を楽しんでいただけたら良いなと思っています。僕は設定屋なので、スケジュール的に地獄を見るようなことはあまり無いのですが……。
そうなんですよね(笑)。スタッフの皆さんは本当に大変だと思うのですが、僕はファンの皆さんと同じく、第2シーズンが始まるのをすごく楽しみにしています(笑)。
[取材・文=丸本大輔]