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『銀河英雄伝説 Die Neue These』スタッフインタビュー企画第5回は、音楽を担当する橋本しん(Sin)さんにお話を伺いました。
『銀河英雄伝説』石黒監督版のアニメや舞台を作られていたキティフィルムの多賀英典会長とは、以前からお仕事をご一緒させていただく機会が多かったんです。舞台をやったり、アーティストを作り上げて行ったり。それで、ちょうど3年ぐらい前ですかね……。多賀さんから『銀河英雄伝説』を再アニメ化するので、音楽をお願いできないかというお話をいただきました。僕は中高生ぐらいの頃、リアルタイムで原作小説が出ていた世代なんですよ。だから、そんな大作にかかわれることがすごく光栄でした。
世代ではあるんですけれども、当時は読めていなくて。小説なので字も多いですし、クラスの中でも頭の良い子が読んでいたんですよね(笑)。たしか生徒会長が「『銀河英雄伝説』って面白いんだよ」と言っていて。それをちょっと見せてもらい、「これは俺には難しいぞ。大人が読む本じゃないのか?」と思ったりしていました(笑)。だから、今回のお話をいただいてから、改めて原作を読んだり、石黒監督版のアニメを観たりしました。
『銀河英雄伝説』って、内容を知る前は、当時の日本で流行ったような SF ストーリーというイメージが強かったんです。でも、実際に原作を読んだり、アニメを観たら、それはまったく違うというか。SF色よりも群像劇的なストーリーの描かれ方をしていたので、すごく新鮮でした。
やっぱりラインハルトには憧れますよね。僕はけっこう優柔不断なので、いろいろなことに対して悩んで、なかなか決められないタイプなんですよ(笑)。でも、ラインハルトは決断力が凄い。自分の思想も揺るがないし、ある意味、独断で物事を進めていく。子供の頃から、そういう人にずっと憧れていました。普通はどこかで迷いみたいなものが生じるじゃないですか。ラインハルトは、迷ったとしても自分の信念を大事にするスタイルで憧れますね。
最初に、監督とお話をさせていただいて、作ろうとしている作品の色付けや肉付けを感じ取ることを大事にしています。あと、劇伴は一つの作品の中で何十曲もの曲が必要ですよね。その中で大切になるのが、シーンの切り替わりなんです。シーンを音楽によって切り替えていくような形になるので、より効果的に音楽を使えるように、一つ一つのシーンをイメージしながら書いています。
まず、メインテーマに対するこだわりが非常に強かったです。というのも、多田監督の意向として、今回は作品の中でメインテーマをふんだんに使いたいということがあって。「メインテーマの中には、この物語のストーリーを表す全ての要素を入れたい」とおっしゃっていました。実は、僕の中でも同じようなイメージがありまして。壮大なスケール感や、群像劇的な要素、 SF 的な要素など、いろいろな要素を表現できるように、組曲的なイメージを持ってメインテーマ作りを始めました 。
そうですね。最初に、あるクラシックの曲のモチーフを使ったデモを作って、「こんなのはどうでしょうか?」という感じで聴いてもらったんです。そこから、何度もミーティングを繰り返していき、多田監督からは、「スケール感を大きく」とか「ハリウッド的に」といったオーダーがありました。多田監督が直接言葉にしたわけではないのですが、僕の中では、テレビアニメの感覚で作品作りをするのではなく、劇場アニメのスケール感でこの作品を作り上げていきたいという気持ちをすごく感じました。そうやって変更を重ねていった結果、メインテーマは最初のデモとは完全に別の曲。まったく新たに作った曲となりました。
僕は、 SF物、『スターウォーズ』『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』とかもドンピシャな世代なんですよね。『スターウォーズ』とかは、興奮しながら観ていましたから、作品のスケール感のイメージはすぐにできました。そういったSF作品の音楽のニュアンスと、今の音作りのやり方を一緒にしながら、まったく新しい音楽を作っていくというトライを心掛けていました。
作った曲のは、たぶん40、50曲です。その中から、これはちょっと『銀河英雄伝説』とは違うなと思って自分でボツにした曲もありますし、監督の方から「この作品では使いづらいかも」というご意見をいただいた曲もいくつかはあったので、最終的には30数曲という感じですね。
作品の時間軸の長さを音楽で表現するに当たって、クラシックをベースにしながら、現代的な表現を入れていくようにはしました。そして、クラシックの中でも、さまざまな時代、古典派、ロマン派、新ロマン派、現代、近代といった異なる時代の音楽の要素を散りばめています。
メインテーマはフルオーケストラというイメージで楽曲を作り始めて、それが楽器構成のイメージにもなりましたが、他の曲に関してはバリエーションも結構あると思います。例えば、キャラクターにスポットを当てていく曲ではピアノ一本だったりもしますし、シンセのテイストを入れることで現代的な匂いのする曲にしたり、ということはやっています。
今回、フルオーケストラでのレコーディングは行いませんでした。というのも、フルオーケストラで表現すると、すべての演奏が生楽器になるので、どうしても音としてはちょっと古く感じられてしまうんですよ。そこで、ハリウッドなどでもよく使われている方法なのですが、この楽器はシンセ……いわゆるサンプルで、ここの楽器は生楽器で、という風に組み合わせました。それに、サンプルの音は、音が近いというか……よりメロディーにピントを合わせやすいんです。だからメロディーにピント合わせたい楽器に関してはサンプルを効果的に使い、奥の方でエモーショナルに表現したい楽器は生楽器を使う。そういう使い分けをすることで、クラシックテイストな曲も、今のサウンド感になってくるんです。今回は、そういう手法で全ての曲を収録しました。
印象的なオーダーですか? うーん、これは他の現場でもよくあることですが、「キャッチーなイントロで」とかですかね(笑)。先ほどの話ともリンクするのですが、このメロディーが鳴ったら、このシーンの展開になる、というのがより分かりやすく、キャッチーであれば良いという意味でのオーダーだと思うんですけど。なかなかそれが難しいんですよ(笑)。
はい。コメディなシーンもありますけど、基本的には、真面目なストーリーですからね(笑)。あと、これはオーダーではなく、僕が監督と話していて思ったことですが、今回の作品に関しては、表面的なメロディーではなく、内面的なメロディーを充実させたいと考えているのかなと感じました。だから、耳元で響いているというよりも、心の中で響いているような音楽を心がけましたね。
僕はスクリーンで見たんですけれども、想像以上にスケール感が大きく、感動しました。もちろん、絵コンテや台本は拝見していたんですけれども、絵も綺麗でしたし、このまま劇場で流しても良いんじゃないかなと思いました。音楽も、自分ではすごくはまっていたように感じました。
これまで、劇伴を作らせてもらった作品は、恋愛やコメディなどの日常的なストーリー、あるいはサスペンスといったものが多かったんですね。SF 的な作品もありましたけれど、こんなにも壮大なストーリーの作品に音楽をつけるという経験はなかったんで。スケール感が大きくて、展開も激しくて、人間の儚さ、脆さ、愚かさといったものも表現した作品というのは初めてでした。だから、僕の音楽人生の新たな分岐になるような作品になったと思うし、代表作と言えるような作品になって欲しいなと思います。
『銀河英雄伝説』のファンの皆さんにとっては、新しい『銀河英雄伝説』の世界に引き込まれるような作品になっていると思いますし、『銀河英雄伝説』にまだ触れたことがない人にとっても、ワクワクゾクゾクするような作品になっているはずです。音楽的にも非常にバラエティに富んだものになっていますので、ぜひ、ご覧いただければと思います。
[取材・文=丸本大輔]