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『銀河英雄伝説』の壮大な世界観や、個性豊かなキャラクターたちの紡ぐ物語を作り出した原作者、田中芳樹先生のスペシャルインタビューを公開。『銀河英雄伝説 Die Neue These』のアフレコを見学した際の感想も伺いました。
最初に聞いた時は、からかわれているのかなと思いました。本当だと分かった時には、大変失礼ながら、一度アニメになっている作品なのに、世に物好きの種は尽きないなと思いましたね(笑)。
人々が歴史や社会の移り変わりに翻弄されながらも、自分なりの考えや意見を持って生きていく。そういう姿を描きたいなと思いました。
僕が作家であることの意味を教えてくれた作品……と言うと、すごくカッコ良いですよね(笑)。この作品を書いてから、自分の物書きとしての方向性みたいなものが見えてくるようになったり、書きたい素材のようなものがどんどん出てくるようになりました。この作品以降、物書きとして、半人前から一人前の方へだんだんと近づいていけた。そのおかげで、今日までやってこられたような気がします。
その変化が一貫していればお話しもしやすいのですが、すごくとっちらかっているんですよね……。ある時は、自分でも「よくこんな作品が書けたな」と思うし。ある時は「このくらいしか書けなかったのか。でも、あの頃だったらしょうがないな」とも思うし……。申し訳ないですが、その時々の気持ちで本当に変わってくるんです(笑)。
二度も長編アニメにしていただく値打ちが本当にあるのかな、と思ったりしています(笑)。でも、そんなことを言うと、作品や作中人物に対して失礼だなと思ったり……。とにかく、アニメにしたいと思ってくれる物好きな人たちが、こんなにもいて下さるのは、とてもありがたいことです。
最初の1本(『わが征くは星の大海』)を観た時は、「すごい!」と、ただただ圧倒されました。それから12年の間は、何度か「最後までいくのかな?」「もしいくのなら、すごいな」とか思ったりしながら、楽しみにしていました。小説の原稿を書くのは僕1人なので、僕が一生懸命に書けば良い。でも、アニメは本当に大勢の人がかかわるメディアなので。大勢の人々に一生懸命作っていただけていることが本当に嬉しくて、有難かったですね。
例えば、キャラクターのビジュアルイメージなどは、小説でもある程度は作っていましたけれど、アニメではそれが想像以上に派手になっていたり、カッコ良くなっていたりして。そういったところを観ると、このカッコ良さなどは、アニメでなくては表現できないことだなと考えたりしました。
具体的にどのようなことを話したかは、あまり覚えていないんです。でも、とにかくお会いした最初から、その熱意に圧倒されました。一言一言にすごく誠意がこもっていて、「心の底から好きで作って下さるんだな」というのが伝わってきたんです。本当に物好きな方だというのがよく分かりました(笑)。少し偉そうな言い方になってしまいますが、この人たちにお任せしたら大丈夫だな、という気持ちになりました。ぜひ、原作でも最初のアニメでも、表現できなかったところを表現していただきたいなと思っています。
そうですね。里子に出して、里子の教育は、全部、里親にお任せしているような気持ちです。ドキドキしながら、楽しみにしていたいと思います(笑)。
はい。結局、そこが一番大事だと思うんです。技術的に優れていても、その作品に対して作り手が愛情を持っているかどうかは、ある程度は分かるつもりなので。
ああいった場所に出るのも、もう慣れた……というか、すれたと思っていたんですけど、やっぱり駄目ですね(笑)。舞台の袖に隠れている時から胸がドキドキで、出て行く時も右手と右足が同時に出てないだろうかと心配になるくらいでした。
あまり長い時間ではありませんでしたが、お話することができました。石黒監督版のキャストの方々とは、「懐かしいですね」と言い合ったり、「今度のアニメはどうなるんでしょうね?」「あそこのどら息子はどんな風に描かれるんですかね?」といった話をしたりしました(笑)。キャストの方たちは、今も『銀河英雄伝説』という作品を大事に思って下さっているんだなということが分かって、とても嬉しかったです。また、新しいキャストの方々からは非常に熱意を感じて、原作にも前のアニメにも無かった世界を作り、作品全体の世界をさらに広げていただきたいなと思いました。
やっぱり、すごい迫力でしたね。全体として、石黒監督に作って頂いたアニメよりも、少しシャープな感じがするかなと思ったりもしました。
最初のアニメの時もそうでしたが、僕がこんなにも言いにくいセリフを書いたせいで、皆さん、本当に大変そうだなと思いました(笑)。そんなことを考えつつも、声優の皆さんの声の響きやセリフ回しなどにうっとりしていました。
ヤンと上官の会話などですね。そこらへんの兄ちゃんの会話のように書くわけにもいかず(笑)。極端に言うと、舞台劇のセリフ回しのような感じで書いているので。ただ、僕は小説のセリフを書く時には、だいたい自分でも呟いてみて、こういうセリフは現実におかしくないかな、というのを確認しているので。僕が言えるのだから、プロの皆さんなら大丈夫だろうと安心もしています。
これは石黒監督版の時もそうだったのですが、スタジオにいる声優さんが本当に男性ばかりなんですよね。私が書いた小説に出てくるのが男性ばかりだから、そうなっているわけですけど(笑)。もし、今書いたとしたら、通信士官や補給士官といったキャラクターには女性も出していたかもしれません。そんなことを、帰りの車の中でマネージャーと話していました。
大変ありがたい話ですし、商売人としては美味い話だなと思っています(笑)。30年前、その時に自分が持っている力を全部注ぎ込んで何とか完成にこぎ着けた作品が、こうして時を経て、また新たにそれを読んで下さる方たちがいらっしゃる。そのことが信じられないような気持ちです。虚心坦懐(先入観の無い状態のこと)に読んでいただいて、面白かった、良かったと言って下されば、これ以上の幸せはありません。
同じアニメでもこういう描き方があるんだな、という風に楽しんでいただけると、嬉しいです。前の方が良かったという方もいるでしょうし、前のよりも良くなったという方もいると思うんです。でも、どちらの方も僕にとっては非常にありがたいです。
アニメのことだけを考えて待っていられたら幸せなんですけど、他の仕事もあるもので(笑)。その合間合間に、今はどんな風になっているのかな、とか考えていると思います。卒業した生徒のことを思い出す学校の先生のような気持ちでしょうね。時折、昔の生徒のことが気になったり、懐かしく思い返したりしながらも、今担任している生徒に精一杯、力を注がなくてはならないので(笑)。
原作者として、その点については一切口を出さないことにしています。とにかく、新たに制作して下さる皆さんが「自分たちにやれることは全部やった」と言って頂けるような作品になれば、私としては嬉し涙が出るほど嬉しいです。
[取材・文=丸本大輔]